川沿いの家 T8private residence
主要用途  専用住宅

構造     在来木造

規模     2階

敷地面積 694.41u   

建築面積  192.73 u   

延床面積  248.07 u

 敷地の東側に笠松山・頓田川が望めるまだまだ原風景のニオイがする敷地。老朽化した母屋を建て直す計画である。この原風景を破壊することにはなるがなんとか溶け込む景観をつくれないかを当初から考えていた。

施主の要望は瓦屋根を使って軽くすっきりとした外観。すぐに一文字瓦が頭に浮かんだ。瓦の選定にあたっては工場を見学させてもらい話を聞き地元の瓦である菊間瓦に決定した。恣意的ではあるが瓦屋根の棟の流れを山並み・川の流れに合わせ方向を揃え、深い軒と化粧垂木で軽さを表現してみる。玄関庇はガルバリウム鋼板の平葺きを使い、軒先を極力薄く・低く水平ラインを強調する。玄関柱を90角とするなどで華奢さを出すなど一つ一つの寸法に気遣うことでプロポーションを整えることが出来たと思っている。住宅としては大きなヴォリュームをなるべく抑えることで、景観としては溶け込めたのではないか。そして今はまだ建物が真新しいが刻を重ねていくことで風景になってくれればと思っている。

内部は、当初から数奇を意識しこれまでにない様々な素材の数を寄せて、ひとつのまとまりある空間に仕上げたかった。天井、壁、床はもちろん建具などにもアルミ・和紙・ガラス・木材と使い、その素材たちの重なりがリズムとなって変化のある部屋をつないでいる。将来は3世代の家族が住むことを想定している為に部屋数も多かったこともあり部屋の配置が重要な要素に思えた。しかし居室の配置は計画当初からほとんど変わっていない。変わったのは各々への繋がり方だった。既存の母屋にもあった表と裏をつなぐ廊下を計画し、その階上もバルコニーで表と裏がつながっている。

結局のところ、山・川など自然とのつながり、3世代の家族のつながり、過去(既存母屋)から未来への時間のつながりと「つながり」を今までの計画以上につよく感じた。(長井)
「温熱環境」

施主の要望の第一は温熱環境であったので補足として触れておく。システムについては計画当初から検討を重ねた。各メーカーから出されているものは建築との一体性のものが多く一長一短でありコストも高価であった。ひとつの案として蓄熱暖房が浮上し、居室の床置きをあえて床下へ取入れて稼動させることへと計画していった。シックハウス問題から建築基準法で24時間換気が義務化されたこともあり、室内の空気は循環されている。(換気についてはきちんと計画されていないと循環はなされていないか過剰に換気されている。)この換気を利用し居室の空気の流れから蓄熱暖房の位置と各居室の床に要所のスリットを設けることで体感できない程度の暖かい空気が流れる。床面積と蓄熱暖房の性能から机上計算し目標とするQ値(熱損失係数)に近づけるように断熱・窓などを検討するなど何度かのフィードバックを繰り返して建物の仕様を決定した。今回の計画では床面積が大きく蓄熱暖房の設置台数は机上計算では3台となってしまう。3台ともなれば電気容量、イニシャルコストなど高価になる。蓄熱暖房メーカーの検討値やこの地域の温暖性を考慮して台数を2台とした。12月から2月現在まで比較的暖かい日が多かったこともあるが、補助的に他の暖房もつけることなく過ごすことが出来ているようだ。

また夏には川沿いということもあり冷却された風が工事中も部屋をよく通っていた。西側には極力窓を少なくし、寝室となる部分の庇は深く出してある。熱損失係数の数値からも言えるが充分な断熱・気密も出来ており効率的な空調も期待できる。

今回のように、温熱環境を充実させる上で必要となってくるものが施工精度になる。同じ材料を使用しても精度の差が大きな差となる。施工会社はもちろん職人さんたち一人一人の意識が浸透していなければ性能は半減してしまうだろう。今回の施工会社(藤田ハウス)は、意識も高く充分な性能が得られている。